日々、読書記

日々の読書記録です

「犬のかたちをしているもの」 高瀬 隼子

 

≪あらすじ≫

主人公の女性は、過去の子宮の手術の影響で性行為を忌避するようになる。付き合ってしばらくはできる。けれど段々と嫌悪感を抱くようになってしまう。その事情を知っても長く付き合ってる男がいる。一見彼とは純粋に精神的なつながりを持てたようだが、他所の女と金を介在させた性行為をしていたことが判明する。そして、その結果できた子供を引き取ることを、恋人からだけでなくその女から提案される。女とは定期的に会うことになる。主人公は、次第に子供を引き取って恋人と育てる意志を固めていく。

 

≪感想≫

精神的な愛と見えつつ、男は性行為を他所ですませたうえ、子供まで作ってしまう。相手の女は、子供を産むのは経験だと捉えつつ、育てる気はない。そこで、男だけでは心許ないと、相手の男の恋人にも一緒に育てさせようと思う。あなたには子供は産めないでしょうという含意がある(男が子供を欲しがっていたことも明かされる)。主人公は、すべてを悲観的に、かつずれた考えをするので、恋人はどのような状況でも自分が主人公と一緒にいる必要があると思っている。

 

すべての人物の言っていることは飛んでいるようでいて、一定の枠のなかにはある。世界は広いから、このような発想をする人がいてもおかしくはない。むしろ、高校生で子宮の手術をした女の子に、友人の父親としてお見舞いに来て、結婚もできない、かわいそう、と涙ぐんで見せるほうが狂気なのかもしれない。本人がその異常さに決して気が付かないだろうところにこそ狂気がある。それに比べれば、主要な登場人物はそれぞれ、一応自分の行動原理のおかしさには自覚的だ。

 

結果的に最後はわりと収まりのいい感じになる。子供が主要な筋になっているので、安心するとも言える。滅茶苦茶なまま進んでほしいような気もしたけれど。