日々、読書記

日々の読書記録です

「瓦礫の死角」 西村 賢太

 

≪あらすじ≫

主人公(貫太)は高校中退の落伍者。家を飛び出しはしたものの、住み込みバイトの先で悪態をつき追い出されて、母子家庭の家に戻ってくる。母親は家庭内暴力を振るう貫太の帰宅を喜ばず、いつ出ていくのかばかり気にする。

 

働こうともせず、母親を買い物などで使役し、抗弁すると暴言を吐くなど、貫太の態度は最悪に見える。しかし、服役中の父親が出てくるという重苦しい影の元で、2人の関係には少しの改善の兆しが見られる。

 

母親はかつて強引に離婚した父親の報復を恐れ、貫太は母親に頼られる感覚にいくらかの満足を覚える。けれど、性暴力による服役を終える、かつての暴君である父親のイメージは圧倒的である。結局、貫太は自分に咎が及ぶことを恐れ、母親を捨てて逃げてしまう。

 

≪感想≫

西村賢太は、延々と北町貫太を主人公にする話を書いていて、これらは私小説に属するらしい。つまり、西村賢太の過去を下敷きにしたものということだろう。

 

同じ話を延々と描いているように見えて、この小説の次の時期がこの小説というように、時系列に並べることができるようだ。

 

私小説はいつか題材に不足しそうに思えるが、過去が重厚であればこそ書き続けるのが可能ということだろう。作者は昨年死んでしまったので、ついに西村賢太のすべてが書かれることはなかったさえ言える。

 

貫太は、卑屈でコンプレックスの固まりのような存在だ。あらすじだけ読むと面白そうな小説には見えないかもしれない。けれど、それは僕の叙述が拙いからであって、西村賢太が書くと、とても面白い小説になる。どういうことなのだろうか。すごい人がいたものだと思う。