日々、読書記

日々の読書記録です

「首里の馬」 高山 羽根子

 

≪あらすじ≫

主人公(未名子)はかつて不登校で、近所の民俗博物館に入り浸っていた。大人になってからはその博物館で、老婆が趣味のように収集した、沖縄の習俗のインデックス整理を手伝っている。仕事として行っているわけではない。しかし知識は系統立っていなければならない。

 

未名子はほかにクイズを出題する仕事を持っている。インターネット上で、世界中の人を相手に行われる。そこでの会話をもとに、未名子は彼らの背景を推測する。彼らは政治的な追放者や人質であったりするようだ。

 

彼らは複雑なクイズに正解する広範な知識を持ち、未名子にさまざまな知識を与えるが、それ以外の社会的つながりをおそらく持たない。知識とは、現在あるものを将来に受け渡すためのものであることが示唆される。

 

ある日、未名子のもとに、在来馬が迷い込んでくる。馬の世話をするうちに、未名子自身が馬にウェブカメラをつけて、島の現在を記録する決意をしていく。

 

≪感想≫

現在の記録が将来の役に立ち得るということは、現在の状況が一変する可能性があるということにもなる。平時には、作中で常に起きている台風であるが、歴史的には沖縄戦である。「鉄の暴風」と呼ばれたそれは、首里の周辺を地形さえ変えるほどに破壊しつくした。

 

未名子は、現在を記録することにこそ意味があると考える。その記録の真偽や価値を云々するのは、将来の然るべき人間の役割であるとされる。作中のクイズの相手は対照的に、社会の部外者であり、その広範な知識はクイズ以外のどこにも行くところがない。

 

未名子は博物館の知識を彼らに分有する。それは知識が知識として純粋に成り立つことのイメージなのかもしれない。習俗を伝えるというと民族的アイデンティティを思い浮かべるが、彼らはそもそもが局外者で民族性は曖昧だ。それは沖縄と言う、言語的共通を民族の定義としても、日本国内で曖昧さを持つ土地での、習俗の伝承の問題につながる。

 

文体は平易なのだけど、読み取るのが難しい小説のように感じた。人によって得る感想は違うように思う。